宝珠(ほうじゅ)
丸くて上の方が尖った形をした、金銀財宝のぞむ物を思うままに出すことができるという霊妙不可思議な珠。そこから「如意宝珠」と呼ばれることもあり、密教の法具とされて如意輪観音は宝珠を手にのせ、お地蔵さん(地蔵菩薩)もまた左手に宝珠を持つとされています。橋の欄干などに見られる玉ねぎのような形をした「ぎぼし」も本当はこの「宝珠」を模したもので、漢字も「擬宝珠」と書いて「ぎぼし」と読みます。かの有名な「武道館」のてっぺんも、ぎぼしを元にデザインされたそうですよ。
宝鑰(ほうやく)
鑰とは鍵のことで、蔵の引き戸の落し錠を掛けたり外したりする鍵の形をかたどったものです。 暗に蔵そのものを指しているので、財産を象徴しています。「鍵善」とか「鍵屋」といった「鍵」の付く屋号のお店はたくさんありますが、あの「鍵」というのはこの宝鑰のことです。
宝巻(ほうかん)
ありがたいお経が書かれた巻き物。宝巻を入れる筒を筒守(つつもり)と言い、これも宝尽しのひとつに数えられます。巻き物や書物は知識徳義の宝庫とされて、とても大切にされました。書籍・書物そのものの価値さえ、現在とは比べ物にならないほど高かったと思われます。
打出の小槌(うちでのこづち)
打てば何でも自分の望むものが出てくるという小槌。七福神のひとり、大黒さんの持ち物ですし、敵を「討つ」にも通じるために、三つの縁起から家紋や文様に用いられます。槌の打面には宝珠のような文様が描かれています。一寸法師が打出の小槌を振って身丈を大きくしてもらったお話も有名ですね。どうも昔からこういった「四次元ポケット」的な道具はみんなの憧れだったようですね。(笑)
うち、掛札家でも「抱き松葉に小槌」の家紋を使っていますが、宝尽しにある品物はひとつだけを取り上げて家紋とする例が多く見られることからも、その個々の吉祥性がよく分かります。
隠れ蓑・隠れ笠(かくれみの・かくれがさ)
いずれも、身に付けると姿が隠れてどこからも見られないと言われる宝物。共に「宝物集」や「保元物語」に記されていますが、お伽話や昔話でもおなじみですね。隠れ蓑は天狗さんが持っている宝物だと伝えられていますが、得意満面、天狗になってしまって反対に周りが見えなくならないように気をつけないと・・なんてね。
分銅(ぶんどう)
秤で物の目方をはかる標準とする「おもり」のことです。実際に秤にかけるものは鉄か真鍮で作るのですが、金や銀を分銅の形に鋳造して貯えておいて非常の際には貨幣がわりにしたとも言われ、貯蓄を表すものでもありました。昔の分銅の形は円形で、左右が弧状にくびれた形が美しいことからも文様や家紋に好まれたようです。京都には「分銅屋」さんという足袋屋さんがありますが、やはりこの分銅の家紋をお使いです。
金嚢(きんのう)
宝尽しの中に、巾着の形で描かれているのが金嚢です。巾着はお金やお守り・香料など、大切なものを入れる袋で、それ自体も金襴緞子や錦で美しく作られていました。お金を入れる巾着のことを特に「金嚢」と呼び、これを宝尽しの品物のひとつに数えます。
丁字(ちょうじ)
丁子とも書きますが、香辛料のクローブのことで、平安初期に輸入されて珍重がられ、その芳香と希少価値とから宝尽しの一つに加えられます。丁字は薬や染料、香料やびんつけ油を作るのにも使われていました。江戸時代には行灯の灯心の燃えさしが丁字の形になると縁起が良いとして喜ばれたそうですから、丁字がいかに貴重なものであったかが分かりますね。今では輸入食料品店やデパ地下でも手に入るスパイスですが、16世紀初めからは、いくつもの国がインドネシアの丁字をめぐって100年におよぶ争奪戦を繰り広げるなど、当時のその希少価値たるや想像もつきませんね。
七宝(しっぽう)
七宝文様のページでも触れていますが、七宝の名前からか、円の吉祥性か、その意味と形の面白さから一つを取り出して宝物の一つに数えられます。中国のお話に七宝文様に似た繍球という球があり、これは獅子が戯れて遊ぶ球で、この中から獅子の子が生まれると考えられてめでたいとされていました。
方勝(ほうしょう)
赤か桃色の紐で菱形を結んだ首飾りのこと。菱形は斜方形なので「方」、「勝」は中国で首飾りの名前です。日本ではあまり馴染みのない装飾品なのですが、菱形そのものは日本でもよく使われる文様でしたので、よく分からないまま慣習的に宝尽しに入れていたようです。
打板(ちょうばん)
禅宗のお寺で起床・法要・食事・座禅の時に叩いて合図するドラのような物。もともとは中国の青銅でできた楽器で、鎌倉時代に禅宗とともに日本に伝来しました。多くは魚の形をした「魚板」と言われるものだったのですが、「雲板」と呼ばれる雲のような形の物も作られ、この変わった形が好まれて能装束などの文様にもよく使われています。
珊瑚(さんご)
モモイロサンゴなどを装飾用に加工したもので、その美しさから珍重されました。珊瑚を使った宝飾品はすでに正倉院の宝物の中にも見られますし、ダイヤモンドはすべての女性を魅了する憧れの宝石ですが、この珊瑚も当時はそういった貴重品だったのでしょう。ちなみに、宝飾品に使われる珊瑚はダイビングのイメージで出てくる珊瑚礁の珊瑚とは少し違った種類だそうですよ。
熨斗(のし)
鮑の肉を薄く切って、打ち叩いてのばして乾燥させたものを熨斗鮑と言います。古代から鮑は贈り物の代名詞であり、鮑を食べれば寿命を延ばすとも言われていました。のちにはこれを熨斗たたみした紙の間に挟んで引き伸ばしたものを、延寿の意味で祝い事の進物や引出物に添えるものとなりました。贈り物にかける「のし紙」にも、今やほとんどが印刷になってしまったとは言え、まだまだこの名残りが見られます。鎌倉時代になって武士社会になると、熨斗鮑は縁起物として儀式用の肴の定番になり、出陣の祝宴には熨斗鮑に搗栗(かちぐり)と昆布を加えた三種類の肴で「打って、勝って、喜ぶ」という組み合わせとしました。熨斗に込められたのは、敵を「打って」家を「のす」、敵を討って家が末永く延びひろがるようにという、武士の願いでした。ビフテキとトンカツを食べて「敵に勝つ」というのと同じですね。(笑)